宗教について 〜 人の生と死を考える

提供: 有限会社 工房 知の匠

文責: 技術顧問 大場 充

更新: 2024年3月5日

ねらい

日本の社会では、真正面から「宗教」について考え、正面切ってそれを議論する機会はほとんどありません。それは、日本人が、一つの問題を深く掘り下げて議論することを得意としないからでもあり、また、日本人が日ごろの生活では、宗教を意識することがほとんどないからです。歴史的にも、宗教が問題になったのは、人々が生きることに苦しんでいた時代に、支配層の人々が、世の人々の心を癒すために、中国の仏教を学んだ僧侶から、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」さえ唱えれば、皆が救われると聴き、人々が、その教えに従ったとされた記録が残っています。

もちろん、仏教に心から帰依した僧侶の中には、「宗教の本質」について深く考え、議論した人々がいたことも確かです。しかし、その人々の思想が、一般の日本人に影響を与えたと言う事実は、皆無であったと言えるでしょう。同じようなことは、ヨーロッパの社会でも、知識人てあった教会の関係者と、一般の農民の人々との間には見られました。農民は聖書を見ることも、読むこともできなかったからです。

江戸時代の寺子屋や、明治時代の小学校では、日本の神話について学ぶことはあっても、「神道」「仏教」「キリスト教」などのに宗教ついて、深く学ぶことはありませんでした。寺子屋や小学校では、もっと実践的な知識や「習わし」の習得に重点が置かれていました。つまり、お参りや拝礼の仕方など、身につけるべき宗教儀式の礼儀として学んだのです。

飛鳥時代以降、日本の社会には、中国や朝鮮半島から仏教が入って来ました。日本人の僧侶たちは、最初、サンスクリット語で書かれ、後に中国語に翻訳された経典を学ばなければなりませんでした。そのため、僧侶になることを決心した若者達は、漢字や漢文を最初に学び、その知識を使って経典を読んだり、その内容を理解し、さらに中国式仏教の戒律を学びました。

このことは、知的に高い水準の知識を学ぶ僧侶たちでも、漢字や漢文を学ぶために、長期に渡り、大変な努力が必要だったことを意味します。そして、経典の内容を学ぶ前提となる漢語知識の習得には、多大な時間と労力が必要になることは、経典に書かれた教えの内容について、深く学び、教えの内容を深く理解する余裕さえなかった、多くの僧侶が居たことも意味しています。

中世ヨーロッパの社会では、高度な知識を学ぶために、ラテン語の読み書きを習得し、その後でラテン語で書かれた書物を読んで、専門的な知識を得ることが必要でした。この点では、奈良時代以降の日本の僧侶と、中世ヨーロッパの修道院の修行僧や、中世末に誕生した大学の教師や学生と、事情は大きく変わりませんでした。日常に話す言葉とは異なる言語を学ぶためには、それなりの能力と、学習のための長い時間が必要です。

ただ、キリスト教を絶対的な宗教としていたヨーロッパの社会では、宗教者ではない一般の人々だとしても、キリスト教の神を意識せずに、日々を生きることはできませんでした。それは、知らず知らずのうちに、キリスト教の神について考えざるをえない環境を作り出します。例えば、「自分達の王を決めているのは、神である」と考えられていたことなどです。それは、王の暗殺は、重大な理由がない限り、神に背く罪となり、「行ってはならないこと」を意味していたからでした。

ここでは、上に述べたような日本の環境に生まれ、育ってきた皆さんが、ヨーロッパで生まれ、発展してきた宗教とはどのようなものであるのかについて考え、皆さんなりに理解できるように、説明してゆこうと考えています。そして、ヨーロッパのキリスト教を超えて、人間にとっての「宗教」とは何かの本質を、考えてみたいと思います。

宗教の概念がユダヤ人によって深められ、その流れを汲んだ古代ローマのキリスト教徒たちによって、古代ギリシゃの形而上(けいじじょう)学との融合によって、さらに深められ、古代ローマ帝国が滅亡した後、中世ヨーロッパの社会が成立すると、修道院の修道僧によって哲学的な探求が深められた歴史から、キリスト教の思想史が基礎にならざるをえません。仏教における議論も参考になりますが、中世の修道院の探究者の思想に比較すると、探求の深さが足りないと言わざるを得ないでしょう。 

目次

ここでの話の成り立ちは、以下の通りです。

第1章 はじめに
ある政治家の暗殺
(2023年1月15日掲載、2023年5月8日更新)
政治家とある宗教団体との関係
(2023年1月16日掲載、2023年9月6日更新)

第2章 考える準備
人類の歴史と宗教の誕生
(2023年1月21日掲載、2023年5月10日更新)
言葉と宗教思想の進化
(2023年1月21日掲載、2024年3月5日更新)

第3章 宗教とは
人はどう生きるべきか
(2023年1月27日掲載、2023年9月21日更新)
人は死んでどうなるか
(2023年1月28日掲載、2023年9月22日更新)

第4章 社会的な秩序と規範の基礎
嘘をつくこと
(2023年1月29日掲載、2023年9月28日更新)
暴力をふるうこと
(2023年2月4日掲載、2023年9月28日更新)
差別すること
(2023年2月10日掲載、2023年9月28日更新)
盗むこと
(2023年2月14日掲載、2023年9月29日更新)
殺すこと 〜 殺人と戦争
(2023年2月17日掲載、2023年10月14日更新)

第5章 新しい時代を生きるために
学んだ知識を利用する
(2023年2月20日掲載、2023年10月18日更新)
自分の富を利用する
(2023年2月22日掲載、2023年6月8日更新)
自分の地位を利用する
(2023年2月24日掲載、2023年7月1日更新)

第6章 人間の社会と宗教
宗教について考える
(2023年3月1日掲載、2023年6月12日更新)
疑似宗教について考える
(2023年3月2日掲載、2023年6月13日更新)

第7章 おわりに
進化論と無神論について
(2023年3月6日掲載、2023年7月16日更新)
日本社会と宗教教育
(2023年7月15日掲載、2023年7月16日更新)